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東大生が何かの感想を書くブログ

中国映画『流浪地球』を見て 

前書き追記:最近知ったのですが、Netflixに『流転の地球』という名前で入ってました!SFというテーマなこともあってか中国映画としてはイデオロギー要素がほとんどなく、比較的見やすい方だと思うので、加入されている方は是非!

この映画は昨年9月に优酷で見たのですが、割と流し見してしまったので見返しつつ感想をまとめることにします。中学生のときにこういう設定(天災で人類が地下に避難して暮らすことになる)のSF小説を読んですごくハマったのに、なんという名前だったかさっぱり思い出せない…。

少し説明すると、『流浪地球』は2019年に公開された中国の大ヒット映画です。年間を通じて興行成績は9位で、小説『三体』と並んで中国のSF業界が新時代に突入したという評判もあるほどの大作です。ちなみにこの映画の原作である同名の短編小説も、超絶怒涛なヒット作である『三体』と同じく刘慈欣が書いたらしいですね!私もいま知りました。というか刘慈欣すごいな、まさにエポックメイキングな小説家なんですね。

『三体』は昨年夏に読みました。始まりが文革のときに大学教授が校庭に引きずり出されて、リンチを受けて亡くなるという衝撃的なシーンで、本筋とは離れているのに私はそのあたりの描写が一番好きだったかもしれません。美容室で読んでいたのですが、思わず美容師さんに「主人公だと思っていた人が最初の数十ページで死んでしまいました…」と漏らした記憶があります。文革という外国人の私にとっては全く馴染みのない場面だったのにも関わらず情景がありありと思い浮かんで、もちろん痛々しいという言葉では済まないようなものでしたが、作者の方と訳者の方、両者の力量を感じました。

残りの2冊の日本語版が出ていないので待ち遠しいです。文系の私には日本語でもきつい内容だったので、原版に手を出そうとは思えませんが…。

 

さて、この映画のあらすじを私の愛する百度百科から引用してざっくり訳すと同時にいくらか勝手に付け加えてみます。

流浪地球(2019年郭帆执导中国科幻冒险电影)_百度百科

近年来,科学家们发现太阳急速衰老膨胀,短时间内包括地球在内的整个太阳系都将被太阳所吞没。为了自救,人类提出一个名为“流浪地球”的大胆计划,即倾全球之力在地球表面建造上万座发动机和转向发动机,推动地球离开太阳系,用2500年的时间奔往新家园。
中国航天员刘培强饰吴京饰)在儿子刘启四岁那年前往领航员空间站,和国际同侪肩负起领航者的重任。转眼刘启屈楚萧饰)长大,他带着妹妹朵朵赵今麦饰)偷偷跑到地表,偷开外公韩子昂吴孟达饰)的运输车,结果不仅遭到逮捕,还遭遇了全球发动机停摆的事件。为了修好发动机,阻止地球坠入木星,全球开始展开饱和式营救,连刘启他们的车也被强征加入。在与时间赛跑的过程中,无数的人前仆后继,奋不顾身,只为延续百代子孙生存的希望。
 近年、太陽が急速に老化すると同時に膨張を続けていることが発覚した。地球は100年後に太陽に呑み込まれ、300年後には全ての太陽系が同じようにして消滅してしまうというのだ。この危機を前に世界中が力を合わせ、連合政府の名の下「流浪地球」という大胆な計画が打ち出された。それは世界中の力を合わせて、地球の表面に1万ものエンジンを建設して地球を太陽系とは反対の方向へ押し出し、2500年もの時間を費やして4.2光年離れた新しいふるさと(新家园)に向かおうという移民プロジェクトだ。
 しかしながら300メートルも海面が上昇する、気温がまもなくマイナス70度に達するなど事態の悪化は急速に進み、各エンジンの地下に建設されている「地下城」への移住が進められることになった
 中国の宇宙飛行士である刘培强は、息子の刘启(主人公)が4歳の年に「流浪地球」プロジェクトの一員として宇宙ステーションに向かい、様々な国の仲間とともに管制員という重責を担っていた。17年後刘启は大きくなり、妹の朵朵とともに無断で地表に出て、祖父である韩子昂のトラックをこっそり運転する。結局は逮捕されることになり、投獄中に大きな地震が起き、なんと世界中のエンジンが止まってしまう。このままでは地球が木星に墜落するため、連合政府は手を尽くして救援活動を行い、刘启たちもそれに協力することになる。時間との戦いの中、刘启は救援隊、そして反発していた父とも協力してこの危機に立ち向かう。

うまく説明できているか不安です…。SF映画だとやっぱり説明が長くなってしまいますね。家族がテーマの映画だと言う人もいるくらい、家族というキーワードが組み込まれたSF映画です。そういえば韓国映画新感染 ファイナル・エクスプレス』も、家族を含め「愛」が組み込まれたゾンビ映画でしたね。私はあの映画結構好きです。

総じて言うとこの映画はとにかく映像がすごいと思いました。語彙力がない。地下城の中の様子から建物も何もかも凍っている外の様子まで、映像のクオリティが本当に高くて映画の世界観に容易に入り込むことができました。前回の記事と同じように10点で点数をつけるとするなら7点くらい?主人公のおじいちゃんが好きすぎるのでやっぱり7.5点にしておこうかなとも思いましたが、最後の展開に少し思うことがあるので(ネタバレ含むため後述)、やっぱり7点くらいにしておきます。そもそもこんな上から目線で点数なんてつけたことがないので私の中でもまだ基準が定まっていないです。主人公にはあまり感情移入できなかったけれども、脚本は全体的によくまとまっていて面白かったです。

特に最初1時間ちょっとの間は展開が本当に早くて飽きがこない。モスと呼ばれるAIも近未来感をより強くしていてよかったと思います。宇宙ステーションの近未来感と地下城の現在と変わらない庶民の日常という対比が効いていました。それと映画の冒頭、地球が異常気象にまみえるあたりでの世界各国のニュース番組の切り取り方がかなり好きでした。おぼろげな記憶をたどると『シン・ゴジラ』と似ているような気もしますね。

私は小説のジャンルの中ではSFが一番好きなのですが、作品の中で制度がきちんとしていればしているほど、まるで本当に実在しているように感じられてよりその作品に一段と愛着が湧きます。もちろん広げすぎれば設定を回収しきれないとか、矛盾が表出するとか、様々なリスクはあるので難しいとのは承知なのですが。例えばハリー・ポッターシリーズでは、魔法省という役所の存在が出てきた瞬間すごく気分が高まったし、ホグワーツの学校のO.W.L.といったテストに関する描写はヴォルデモートとの戦いの倍くらいの回数を読み返していると思います。その世界の輪郭をなぞればなぞるほど没入感が大きくなるんですよね。

ただこの映画の中で、宇宙飛行士たちは機械の中で眠りにつくことで体力の消耗を極めて低く抑える「休眠」という仕組みを活用しているようですが、説明が全くないので個人的には詳細が気になりました。主人公の父である刘培强も任務についた17年のうち12年は休眠にあてていたようです。地下城の中ではそのような設備はなさそうだったので、有能な人材はできるだけ長く生きてもらいたいということなのでしょうか。その分寿命が延びるのかどうか定かではなく何のためにそうしていたのか引っかかるので、やっぱりちょっと説明はほしかったですね。

あと連合政府の実権がアメリカ、ロシア、中国、イギリス、フランスの5ヶ国というのも個人的に面白かったです。国連の安全保障理事会常任国と全く同じで、高校生のときは実感もなく暗記していたけれどたしかに想像はつくなあと。私は国際政治に関しては単位を取っただけで全く頭には入っていないのですが(もう少し悪びれるべき)、GDPの規模と国際政治上の力量は必ずしも一致しないですよね。GDPではドイツが上でも、私でも大陸のEUから1国選べと言われたらやっぱりフランスを選びます。保有国というのを意識しているわけではなく…国際機関の公用語として英語の次にフランス語が多いとよく聞きますよね。世界史は一応入試の時に勉強して、イギリスとフランスが近代以降長い間いつも渦の中心にいた印象があるから条件反射でそう選んでしまうのかなあ。

ロシアは地政学的に重要なんですかね…GDP的には日本の3分の1なのに。今回のように宇宙関係だとたしかに経験はあるのだろうけど、国際政治と言われる場においてもGDP以上の存在感を発揮しているように思えます。全然知らないけど。

この映画に話題を戻すと、やっぱり理系かっこいいなあ…という一言に尽きますね。優秀な理系のメガネくんが重要な役割を果たすのですが、とても輝いて見えました。そう考えるとやっぱり『シン・ゴジラ』と重なる部分が多い気がしてきました。詳しく書くとネタバレになるので後述しますが、でもこれはパクリだと言いたいわけではなく、きっと国や地球の存亡を前にした題材を扱う際には一定のフレームワークがあるんでしょうね。意識せずともストーリーを成立させるとなると結果的にその中に収まることになり、その中で個性を出していくしかないんだと思います。

そういう風に考えるとこの作品は場面展開をまめに行ったり、ストーリーの中に親子の確執を組み込んだり、AIを始めとしてハーフの男の子、主人公のおじいちゃん、嘔吐おじさんなど印象の強いキャラクターが多かったりして独自の色を出せていると思います。人気なのは納得できますね。救援隊の隊員の心情描写もしっかりしているから海猿的な面白さもあるし、見ている人は斬新な設定に加えてそのほかでもどこかしら気にいる部分がきっとあるのではないでしょうか。題材に対して2時間5分という時間が短すぎるため説明しきれず、私のような粘着質な視聴者がうだうだ言いたがることになるんだろうけれども。ただやっぱりこれから書くいちゃもんは全体的に面白かったからこそ惜しいと思った部分であり愛情に基づいているという前提で読んでいただきたいです。

ネタバレなしの範囲内で最後にとてもしょうもないことを書きます。この映画は地球全体が直面している問題を扱っていることもあって、結構海外の描写が差し込まれる回数が多いのですが、日本語の発音がやっぱりちょっとぎこちないんですよね。昔見た韓国ドラマの中の日本語よりは全然マシなんですが、発音がちょっとだけ詰まってる感じ。「味噌汁飲みてえ。白飯がありゃ文句ねえ。」と日本人が死ぬ前に言う場面があって、翻訳では二つの順番が逆だったので、自分だったらどっちが先かちょっと考えてしまいました。私なら死ぬ前に食べたいのはお寿司かな…。

ここからネタバレありなので映画を見る予定のある方は読まないでください。映画は無料ではありませんが、このリンクから見られます。

流浪地球 流浪地球-电影-高清完整正版视频在线观看-优酷

 

 

 

シン・ゴジラ』と重なると感じるのは、①理系の職員が真価を発揮する、②危ういところを外国の協力によって切り抜ける、③保守的な政府に対して勇敢かつ革新的な個人が無茶をやって奇跡を起こす、という3点ですかね。もちろん政府というのは中国政府でなく連合政府です。

どれも国の存亡を争う際には必須な要素なのは当たり前のことで、きっとこのテーマをエンタメとして扱うときの必要条件ということなのでしょう。ただこの映画では連合政府の影も形も見えないのが私は納得できないです。地球を思ったより早く見捨てるのかと思いきや、最後結局は「宇宙ステーションの半分くらい木星に突入させていいよ、グッドラック」とか言い出して、絶大な権力を握っている連合政府の本家本元はどこに所在しているの?さっぱりわからない。全てAIモスを通してしかコミュニケーションできないし、実態が見えない組織の決定には圧力しか感じなくて、最後の方に急に人情を見せられても…という混乱がありました。主人公の父、刘培强が連合政府に「今日は中国の新年1日目なんだ」とか何とか言って情に訴えかけるシーンなんて、そんな簡単に連合政府が情で動くものかね。世界に旧暦を採用している国がいくつあるというのでしょう。どうせ滅ぶのを待つだけなら0.1%でも確率がある行動を起こした方がマシなわけだし、そっち路線でもう少し合理的に説得できないものか。

ただ科学技術の権化であり、全能の神のようにさえ感じられるAIのモスが全世界に向けて地球の終わりを通達した時の絶望感がとても印象に残りました。不謹慎かもしれないですが天皇玉音放送を想起しました。もちろん絶望が深ければ深いだけそこからの逆転ハッピーエンドが輝くわけですが、そのあと九死に一生を得るような打開策を思いつき、世界中に協力を願うもみんなもはや希望を失っていて耳を貸さない部分はすごくリアリティがありましたね。

だからこそやっぱり最後の国境を越えていろいろな国から集まってきた人々と一緒になって力仕事をするシーンはありえなくない…?と一歩引いた目で見てしまいました。ここまで文明発展させておいて、一人では抜けなかった大きなかぶが何人も集まったら抜けました、みたいな展開は欲しくなかった。というかあんなに長くてカーブしにくそうなトラックを運転してインドネシアスラウェシ島とやらまでそんな短時間で着くものかな?そして年端のいかない女の子が涙ながらに訴えかけたらみんなが動いたみたいな展開も、1回目に見たときはふつうに感動したけど2回目に見たらあるある〜と冷めた目線で見てしまいました。まあ理由はわかるんです、宇宙飛行士とかいう外れ値のエリートに言われるより、普通の女子中学生?高校生?とかが声を上げる方が親近感があって人々の心に訴えかけるという効果を期待できそうですよね。私も民衆の一人として実際同じように勇敢な少女に感化されるはず。でもこういうジャンヌ・ダルク的構図を何度も見たことがある気がして、親近感という面では別に主人公の少年でもよくない?と思いました。

フェミニズムをエンタメに持ち込むなと言われそうでヒヤヒヤするので保険をはっておくことにします。こういうのは結局偽善というか、自己満足だという自覚は一応あります。アリエルを黒人の方が演じるというニュースを見てモヤモヤしたこともあるし、きっと私は現時点で私自身に関係する問題にだけ関心があって、是正を求めているんでしょうね。結局はどの差別も上野千鶴子さんがある座談会の中でおっしゃっていた、

上野先生:女性差別に対して男性が声をあげると、やっぱり空気が変わるの。男がいうのと女がいうのとは違うんですよ。

学生:女性と男性が言うことの重さが違うことが残念だと思います。結局、性差別がある環境を、女性の力だけで変えることは難しいと言うことでしょうか。

上野先生:当たり前です。あなたの言う通りよ。同じことを女が言うと「それは考えすぎ」「被害妄想」と言われがちよね。

この議論に通ずるものがありますね。問題の当事者が口を開かないことには議論にさえならないものの、解決に導くには当事者以外に問題だと認識してもらい、共感を呼んで賛同者を増やした結果ようやく事態が改善に向くというか。差別に限らず、公害問題とか基地移転問題とかにも通じるものがあるのではないでしょうか。浅薄な知識でインターネットという大海で物事を主張するのは怖いので、もう十分言ってしまいましたがこの辺にしておきます。

UmeeTというこのサイトは東大発オンラインメディアとのことですが、結構面白い記事が多くて1年生の時からたまに見ては読み漁っています。是非読んでみてください。

【上野千鶴子先生と東大生のライブ討論】それでも消えない祝辞への疑問を、本人に投げかける | UmeeT

 

最後にもう一度ストーリーの話をすると、なんか主人公父の意向が結局うまく通り過ぎている気もしますが、主人公を始めとする名もなき人々の団結した力+1人の犠牲でようやく危機を打開できた、というのはなんていうか、妥当な落としどころではあるのかなと思いました。ざっくばらんな表現になってしまいました。もし最初のところだけで解決していたら一介の技術者の思いつきが地球全体を救うというあっさりしすぎたストーリーになり得たし、そもそもその案はイスラエルの科学者たちがもっと早く気づいて、検証した結果否定されていたものでしたよね。そこに宇宙ステーションが突っ込んでいくという普通ならあり得ない選択肢を取ることでようやく実現した方策ということで、きちんと道理は通っています。

劇中のように科学がなければ文字通り地球上で人間が生き抜くこともできないような気候のもとでは科学は人類の生命線ですよね。AIが重要な判断を下すし、まるで科学が全てを支配したような世界で、結局は人の気持ちとかそういう曖昧な何かがその予測を上回るんだというメッセージもあったのかもしれないですね。知りませんけど。

それって結局特攻じゃんって言われたらそれはそれまでだけれども。私はちょっと最後に詰め込みすぎて強引にまとめようとしているという印象は受けたものの、この結末自体には納得しました。ここまでいろいろと文句は言いましたが、世界観が統一されていて、好評を博しているだけはあるなあというのが最終的な感想です。終わり。およそ7000字。レポートもこんなに楽に書けたらなあとか言いません、法学部はレポートないので。

中国映画『少年的你』を見て 

いつの間にか5000文字書いてしまったので、流し飛ばし読んでください。

 

先に言っておくと、この作品は中国国内で好評を博しながらも東野圭吾の『容疑者Xの献身』『白夜行』『告白』のパクリだと主張する声が大きいです。本当だとしたら結構な欲張り大セットですね。パクリ疑惑についてはこのリンク先で詳しく説明してくださっています。ちなみに中国ではJ.K.ローリング(ハリー・ポッターの作者)よりも東野圭吾の方が売れており、海外作家では売り上げ1位ということでファンが中国国内にたくさんおり、大きな論争になっています。

第64回:中国小説界に深く根を張る東野圭吾(執筆者・阿井幸作) | 翻訳ミステリー大賞シンジケート

本作品は中国のセンター試験である高考と校内いじめをテーマにした青春(?)映画です。高校3年生だたくさん出てきてボーイ・ミーツ・ガール的脚本であることを考えると青春映画に分類される余地はあるはずですが、それが憚られるほどの鬱展開を含む映画です。

もともと公開1ヶ月の予定があまりの人気で2週間ほど延長されましたが、本来の終映日の翌日に大手動画サイトで視聴可能になるという…このスピード感は本当に羨ましいです。日本では大多数の映画館で終映したあとでも、見逃し需要を見込んで逆に上映を開始する映画館があったりしますが、中国では上映期間は国全体で統一されているんですね。

 

历史票房红榜 | 中国电影票房排行榜

このサイトによると、興行成績は今年9位です。経済成長中だとはいえ、歴代トップテンのうち6作が今年公開されたものというのは豊作の年だったんでしょうね。

トップスリーは中国の国産アニメの歴史を塗り替えたと言われるほどの大作『哪吒之魔童降世』,『流浪地球』,『アベンジャーズ4(复仇者联盟4)』で、建国70周年を祝って制作された国策映画『我和我的祖国』は5位です。国策映画なので例外的な長さで上映していましたが、これも最近优酷で見れるようになりましたね。

 

さて、本作『少年的你』の主演男優である易烊千玺はTFBOYSの一員で、大人気アイドルです。TFBOYSってもう長いこと名前聞くし歳上でしょと思ってたら、2000年生まれでビビり倒しました…2013年デビューって、もうほぼ小学生でデビューしてたんだ…そして彼は姓1文字に名3文字という、日本でも中国でもなんじゃこりゃっていう名前の持ち主です。芸名でなく本名。中国で4文字の名前の人は基本いないんですけど、彼のお母さんが非凡な人間に育てたいと思ってそうしたらしいです。先見の明がすごい。

まずあらすじから。しばらくネタバレなしで書きます。

豆瓣から引っ張ってきた紹介文を勝手に一部改変したあらすじです。

 この映画の女主人公である陈念は、もうすぐ高考を受ける高校3年生。第一志望は日本でいう東大。同じクラスの胡晓蝶(女1)がいじめを苦に飛び降り自殺したことから生活は一変する。女1が亡くなったあと、陈念は魏莱(女2)を主とする3人組の次のターゲットとなり、いじめられることになるのだ。女2は表面的には優等生であるが、実際はいじめの主犯で、胡晓蝶(女1)の死に深く関わる人物である。

 陈念は易烊千玺演じる小北という不良がリンチされているところを助ける形で出会う。小北はいじめから守るため陈念のボディーガードとなり、時間が経つにつれて2人はいい感じの仲になっていく。しかし小北が駆けつけられない時に陈念は女2たちに取り囲まれ…

まだ見られていない方に一つ注意したいのは、いじめって一口に言ってもかなりキツい内容でした。靴を隠すレベルのジャブはなかったです。尺の問題もあるんだろうけど、どれもヘビーすぎて。誰が見ても刑事事件レベル。

 

この映画の見所は…なんだろう…高考の雰囲気が伝わりやすいこと…要するに中国の高校生について知れることとかかな…。

ここまで勢いよく書いておいてなんですが、正直そんなにこの映画自体は好きじゃないかもしれないと今気づきました。気づくのが遅い。10点満点で5点くらい?それって結構好きじゃないな。演技はみんな上手いと思うんですよ、脚本が好きじゃなかったです。でも映画の上に流れる弾幕(もちろんオフできます)を含め、中国の現状について得た学びはかなり大きかった

あ、あと急に思い出したので数文だけ追記しますが、貧しさからくる湿っぽい空気が映画全体に漂っていて、すごくリアルだと思いました。撮影地は重慶という、急な経済発展とそれについていけない庶民というか、昔ながらの中国の下町感が入り混じった都市だと聞いています。似てるのが万引き家族』みたいな、なんとも言えないくすんだ雰囲気がちゃんと映画の中で生きているのはすごいことなんじゃないでしょうか。

 

まずこの映画から読み取れる中国について説明します。

主人公の陈念はおそらく片親で、お母さんが遠くに出稼ぎに行っています。もちろん裕福な家庭ではなく、廃れた地域にあるボロいアパートの一室に1人で住んでいます。こんなにいじめというか暴行がひどくなったのはこの辺りも関係があると思う。守ってくれる保護者がいないし、家に帰るのに路地裏みたいなところたくさん通るし。

中国では小中高大とほとんどすべてが公立なので、貧しい家庭からトップレベルの大学を目指すことは日本より易しいと思います。聞いた話では公立の高校なのに夜中10時とかまで拘束されたりするらしい、本当に塾いらず。お金があったら進学校が集まる校区に家を買うとかさらに巨額なレベルでの競争があるらしいですが…。

高考は日本でのセンター試験という説明は正確ではなく、高考は私の知る限りでも①人生で1回しか受けられない、②大学ごとの個別試験はなく高考で全てが決まる、③マーク式の問題も記述式の問題もある、④スポーツなど一芸があれば筆記試験の点数に数十点単位で加点される、⑤全国統一でなく、省によって問題や形式が異なる などなど、かなり独特な制度です。

 

さて、感想にうつります。

まず私がこの映画で一番怖かったのは、「主人公の陈念のような人は中国にたくさんいるが、守ってくれる小北は映画の中にしかいない」という弾幕の一文です。いじめの首謀者である魏莱も北京大学を志望する超絶優秀な生徒のはずなのに、受験直前にこんな苛烈ないじめをするってそんな余裕ある?と思うし、周りでも中高時代のひどいいじめの話は聞かないので現実味がなかったのですが、弾幕を見るとそんなに珍しいわけじゃないよね、みたいなコメントが多くて…嘘だと思いたい。たしかに教育熱心な家庭に育った多感な時期の高校生が夜の10時まで毎日一緒にいたらいじめが起こらないわけはないと思うけど…日本のいじめとは少し方向性が違う気がします。日本ならもう少しバレないようなやり方になるんじゃないかな。

陈念はずっと、高考さえ終われば、大学に合格さえすれば人生が変わる。それまでの我慢だと言っています。日本も学歴社会なのかもしれませんが、それ以上のものを感じますね。そんな変わるかなあ…東大に来ても女子は結局顔がかわいい子が一番偉大なのだけれど…

あ、ただ、陈念は別に名誉や高給を求めてトップレベルの大学を目指しているわけではないです。劇中で彼女が言うのは、「勉強して、テストを受けて、いい学校に行って、一番頭がいい人になって答えを見つけたい。もしできるなら、世界を守りたい」です。彼女の意図がよく分からないのは私が世俗の欲にまみれた人間だからか…。良い大学に入ることで世界の真実に近づけるのかな、むしろ学問分野の方が大切なのでは?

そしてこの映画の名セリフとされているのが、そのあとに小北が言う「你保护(=保護)世界,我保护你」です。原作の小説だとちゃんと文脈があったのかもしれないですが、私はこのセリフは少し唐突で宙ぶらりんな気がして、あんまり好きじゃないです。

この映画が好きじゃない理由はネタバレなしには説明できないので、以下ネタバレありです。見る予定の方は気をつけてください。無料ではないですが、ここから見られると思います。

少年的你 少年的你-电影-高清完整正版视频在线观看-优酷

 

 

 

 

まず時間配分が気に食わない。なんでそんな警察の場面に時間費やすの??あの男刑事、そんなキーパーソンにする必要ある??というのはすごく疑問でした。陈念の家まで行って摑みかかるところは本当になんだこいつと思ってしまった。取り調べのシーンで二人の思いが通じ合って綺麗にまとまったと感じた分、子供たちがせっせと耕した花畑を踏み荒らしにきた悪い大人、みたいに見えたのかもしれない。いや中国の映画で警察が殺人犯を裁けないわけがなくて、でもあの取り調べで2人が強固な信頼関係を見せるシーンを描きたくて、それなら刑事の人情とやらでその2つをつなぐしかないのかなというのもわかるんだけど…。

確かに刑事を強調するあたりは『白夜行』を踏襲しているのかもしれない。でもなんかいじめのとき役に立たなかったくせに今更なんなんだという気持ちが出てきてしまって、あんまり歓迎はできなかった。結構主人公たちに感情移入してしまってますね。

というか魏莱(女2)の行動が意味不明。許して、って散々取りすがったあとに何も要求されないってわかった途端、階段登りながらまた上から目線で絡みにいく。意味がわからないから感情移入ができなくて、なんだこの異物は、殺されたいのかな?となってしまう。階段から落としてしまう場面も典型的すぎて…階段登りながらね、ひどいこと言われてね、ぷっつんしてうっかりね、あるある、と冷めた目で見てしまいました。最初に貼ったリンクによると小説では魏莱の亡くなり方が違うらしく、私は小説の方が好きですね。

私は後味悪い映画も好きなんですが、この映画はなんていうか…波乱、暴行、小康状態、暴行、事件、ラストっていう流れの中で、私の中では冒頭の飛び降り自殺のシーンが一番センセーショナルで、それを超えられなかった。うまく言えなくて歯がゆいけれども、後味の悪さを越えて見てよかったと思えるものがなかったです。

ラストも、面会室で二人が対面して笑い合うシーンは本当に好きだったけど、そのあとハッピーエンドっぽくしたいのかしたくないのか、はっきりしてくれ!というのが私の感想です。

小北は「你往前走,我一定在你后面(君は前を歩いて、僕は必ず後ろにいるから)」と言います。ボディーガード役を引き受けるけれども、自分みたいなチンピラと一緒にいるのを見られるのは世間体として良くないからという配慮ですね。私は最後この構図を繰り返すより、陈念も刑務所に入ることで小北と対等になって、隣を歩けるようになった方が救いが見出せるんじゃないかなと思いました。最後陈念が働いているのは学校じゃなく培训中心ですね。頭の良さは生かせるけど教師にもなれない、当たり前だけれども。結果的には将来あんなにも格差があるように思われた小北と同じ未来が歩めるようになった。ひと夏の恋となりそうだったものが生涯のものとなりえたという、もちろん殺人を肯定するわけではないですがそういう終わり方のほうがハッピーエンドっぽい。

  

東野圭吾要素に関して、個人的にそこまで強くは感じなかったですね。内容的にかぶってるのはわかるんだけれども、東野圭吾にこういう学園もののイメージがなさすぎてそんなすぐには結びつかなかった。

結末的に結局逃げおおせる『白夜行』よりは『容疑者Xの献身』かとも思うけど、やっぱり『容疑者Xの献身』ともそんなに結びつかないかな、個人的には。

実は『白夜行』は公開当時、中学生?のときに見に行ってかなりの衝撃を受けました。見終わってすぐに小説も読んで、たぶんこれを機に彼のマイナー作品とかも漁りだしたという、思い入れがある作品なので少しうるさいんですが、実はこのブログを書く前に映画を見返しました。白夜行』の真髄は長期にわたって続いたあの関係性の異質さにあると思っているので、この映画のひと夏の関係的なのはそれよりは常識の範囲内っぽくて私の中では一致しないです。

珍しく擁護しますが、私的にはこの短期間の関係なのにこんなにも入れ込んでしまう、それが『少年的你』というタイトルの表す通り少年少女の危うさなんだと思えます。男刑事は「強姦罪殺人罪を人のためにかぶる人なんていないでしょ」という同僚の言葉に対して、「僕と君ならありえない、でも2人はまだ少年なんだ」と即答します。ここはフラグ回収みたいで良いシーンでした。

(追記)まあでもその未熟さを東野作品との対比で強調されている節はあるので、オマージュというよりは『白夜行』や『容疑者Xの献身』が前提となっているというか、同じ文脈の中に置かれている感じはありますね。そこまで東野作品が中国で浸透していることが信じられないし本当にすごいなという感じですが…まあ『あなたの番です』がめっちゃ流行ってリアルタイムで見ている人も相当数いましたし、日本のコンテンツへの彼らの関心が私たちが想像する以上に大きいのは間違いないのではないでしょうか。それが未来永劫続くとは思いませんが。

 

燃え尽きたのでこの辺でやめときます。

最後まで読んでくださりありがとうございました!同じく2019年のベストヒット作品の一つであるSF映画『流浪地球』の記事も書いていますので、是非読んでみてください。

 

idkzmy.hatenablog.com